ミャンマーの警察と刑法の適用方法との関係の一面を、昨今ヤンゴンで頻発する火災に見ることが出来る。
ミャンマーの法律では、火災が発生した場合、建物の管理者もしくは所有者を管理不履行として起訴し、罰金及び最大3年の懲役を請求することができる。
しかし捜査当局は、実際に管理を怠った人物かどうか考慮することなく、当然のこととして管理者や所有者を過失で告訴する。
ヤンゴン管区警察副所長Aung Zaw Min氏によると「店舗や建物の管理者、所有者、建設者はその建物の責任者であるため、刑法第285条項に基づいて起訴される」。
「もし火災が夜間や閉店後に発生した場合、責任者がすべての電気機器の確認を怠り、電源のメインスイッチを切らなかったことが考えられる」。
厳密にいうと、火災のために起訴することを義務付ける条項は、刑法の中に含まれていない。
刑法第14章第285条項によると、「公衆衛生、安全、利便性、道徳、モラルに影響する罪」として、「火気や可燃性物質を用い人命を危険にさらすような、軽率で過失ある行為を行った者は(中略)懲役刑に処することが出来る」。
あるモーラミャイン出身の元警察官によると、警察の慣習では過失の事件は機械的に進められるという。その後の調査に従い、不起訴となるか公訴を提起される。起訴された場合、その結果は通常、火災の規模によって変わる。小規模火災では、被告人は弁護士を雇うことなく罪状を争うこともない。代わりに、罪を認め巨額の罰金を支払う。
ミャンマー(当時はビルマ)の刑法は1800年代後半にまで遡り、英国植民地時代の規則に基づき初めてできた法律である。当初の刑法では、過失による罰則は今よりも厳しくなかった。しかし、弁護士のSein Myint氏によると、多くの火災により何千もの建物の崩壊が起き人々が住まいを失ったことから1963年に法が改正された。罰則の上限は、6か月から3年に延長された懲役刑及び罰金である。
Sein Myint氏は、元最高裁判所判事 Thet Pe氏による法解説を引用し、第285条項によると、検察は過失を証明するために強力な証拠を示す必要があると述べた。
二人の男性が重い罰金を負うこととなったDiamond Inya Palace 建設現場やジャンクションスクエアプラザでの火災など、同条項はここ数週間で頻繁に適用されている。
Diamond Inya Palace を例にとると、現場監督者であるZaw Min Htwe氏は建物22階で発生した火災の責任を問われ逮捕され、保釈された。2015年11月17日に発生したこの火災は4時間に亘る惨事であった。
出火原因は電灯が落下しその場にあった木材に点火したと断定されたが、監督はこの予測し得なかった不運な事故に報いることになるであろう。
2015年11月23日にジャンクションスクエアで発生した火災では、出火元である2階のYKKO レストランのマネージャーMyat Min Thu氏が過失を問われ起訴された。出火原因は天井にある電気ワイヤーのオーバーヒートであると確認されている。
火災に対する過失で起訴された人の弁護人を務めるThingangyun地区弁護士Win Hlaing氏は、起訴された人々は選択の余地もなく処罰されることになると指摘している。彼のクライアントの誰もが懲役ではなく、何万チャットもの罰金を言い渡される。裁判は通常3か月から5か月かかる。
「当然である」と彼はいう。「ビルや飲食店、工場の責任者は、全ての責任を負っている。火災が発生すれば、それが落ち度であろうとなかろうと責任を取らなければならない。
警察は容赦なく責任を追及する。マンダレーの副大臣Ye Myint氏の自宅が2014年に火災に見舞われた時でさえ、彼を過失として起訴した。その時の起訴は、政府が司法に介入していた長い時代が終わり、ミャンマーが法の原則に従いはじめる第一歩となった。5年前にマンダレーで発生した同様の上級軍人の自宅火災では、この上級軍人は起訴されることはなかった。
しかし被告人にとっては、起訴は傷に傷を負わせるようなものである。なぜなら、火災による被害の修復費は罰金に含まれるからだ。Win Hlaing氏によると、ほとんどの保険会社は損傷の補償は行うが、過失による罰金の補償は行わない。
また、より重い処罰を求める事案もあるようだ。2013年にヤンゴンのマドラサ(ムスリムの教育機関)で起きた火災では13人の児童が死亡し、2人のイスラム人教師が8年間の懲役刑を受けた。過失致死による6年と火災に対する過失による2年の懲役である。
警察少佐は、改めて強硬姿勢を表明した。
「人々は各自の日業業務に責任を持っている」
「電気機器を使用しているのであれば、その取扱いに注意を払う必要があり、注意を払っていなければ、万一火災が発生した場合、過失を問われ起訴されることになる」と警察少佐のAung Zaw Min氏は述べた。
(Myanmar Times 2015年 12月2日版 第6面より)