世界規模の乳児用粉ミルク企業は、2014年にできた産業を規制する法律を遵守するため14カ月以上の猶予期間が与えられているにも関わらず、ミャンマーの法律を無視し続けている。
国際的NGO団体のセーブ・ザ・チルドレンによると、多くの粉ミルクメーカーや卸業者がミャンマーの法律に違反しており、ネスレ,アボット , ワイス, Dumexを含む有名ブランドがトップ違反者の中に入っており、誤ったラベルを付けた製品を供給し続けている。
ミャンマーでは2014年7月24日に国内食品法の中で、世界保健機関が採択した母乳代用品の販売促進に関する国際規準に準拠する「乳幼児のための母乳代用食品の販売規則」を採択し導入した。
これは、幼児用粉ミルクの販売やプロモーションを規制し、子どもが少なくとも6か月になるまで完全母乳育児を行うことの重要性を広めることを目的としている。
また、企業は10月17日までに、粉ミルクの製品ラベルをビルマ語に翻訳しなければならなかった。
しかし、政府の強制力の弱さから、粉ミルク企業はうまく法律を破り、違反ラベルが貼られた製品はミャンマーの主要スーパーマーケットの棚に並び続けている。
「多くの違反が示される一方、多くの企業は違反しているにも関わらず企業イメージのために法律を遵守していると主張している」とInternational Baby Food Action Network(IBFAN)の提唱者Constance Ching氏はe-mailに記した。
ヤンゴンのセーブ・ザ・チルドレンのコンサルタントJennifer Cashin氏は、メーカーが法令違反を認識していることに疑いはないという。「彼らは世界中の国で行っているように法律違反に加担し、あるいは実際に法律違反を率先して行っている」と彼女は述べた。
IBFANからの支援を受ける市民グループとNGO団体は、共同で、国際規準に基づく監視方法として、違反しているラベルのリストの編集と医療従事者の養成に取り組んでいる。
しかしCashin氏は、輸入業者や卸業者、小売店のような現地流通ネットワークに対し、新しい規制に関するより多くの詳細な情報を提供する必要があると述べた。
「声を大にすること、そして、特に製品ラベルのように、何が法律違反であるのかという認識を向上させることがとても重要である」と彼女は述べた。
最も一般的なラベル違反として、販売促進のために健康を強調するものや乳幼児の写真を使用したラベル、ビルマ語表記ではないラベルの使用があるという。
企業は、一般に自社製品の宣伝や販売促進を行うことが認められていない。母親や医療従事者へ販促品として渡すこともミャンマーの法律で禁止されている。さらには、すべての製品は、母乳で育てることの優先度をラベルに記載しなければならない。
いくつかの製造業者はミャンマー法を遵守し、ラベルの内容をビルマ語に翻訳しているが、セーブ・ザ・チルドレンは規準導入モニタープログラムを行った間、多くの違反例を集めたと、この規則に関するNGO団体の広報担当者U Swe Lin Maungは述べた。
政府の新しい規制の適用への対応は遅いが、市民グループとNGO団体は更なる監視活動を行う準備を進めていると彼は付け加えた。
ある保健省職員は、規制を施行する担当部署はスタッフを見つけるのに苦労したと述べたが、政府は10月17日から規制適用プログラムを実施している。
食品医薬品局(FDA)の安全対策部のU Tun Zaw氏は、施行された規則の担当部署は2つあり、医療施設における乳幼児用粉ミルクの促進の強化と監視を行う保健省の国家栄養センターと、新たな輸入品へのラベルの適用を監視するFDAであると述べた。
しかし市場には、違反ラベルが貼られた乳幼児用粉ミルク製品が何万もあることが推定される。
それらは依然としてシティマートやオーシャン、キャピタルハイパーマーケットのような主要スーパーマーケットで入手可能であり、政府が、ラベル規制を遵守する製品と同製品を置き換えるよう卸業者に要求するかどうかは不明である。
人気マレーシアブランドのDumexを所有するダノンの社長Martin Hoelscher氏はミャンマータイムズに、Dumexはミャンマー法を遵守するため必要な措置をすべて講じたが、旧ラベルの在庫は依然として市場に出回っていると述べた。
「私たちは、現在、すでに小売店で販売している規制の適用を受ける製品のうち80%以上が既に新しいラベルのものになったと推定している」とHoelscher氏はe-mailで回答し、既存の在庫をどのように新しい規制に適用するようにしていくかについてはコメントを控えた。
U Tun Zaw氏は、市場にはいまだ規制をくぐり抜けた製品があることを認めており、彼の部署は罰則を施行する前に、ブランドと製品の正確な数に関するデータを収集すると述べた。
彼によると、「卸業者は経済影響を懸念しているが、全体として新しい法律に従うつもりである」といい、多くの卸業者は製造業者との交渉が難航していると報告した。
規制に違反し続けた企業への罰則を協議するためのワークショップが、商業省、FDA、保健省、卸業者によって開かれたとのことだった。
多国籍企業であるネスレは、アジア太平洋乳幼児栄養機関(APIYCNA)の多くの企業とともに、2012年にミャンマーの市場に参入した。これは保健省とFDAと協議を行い実施されたものであり、ミャンマー国内法を遵守するものであったと述べた。
「対話はミャンマーで事業を行うAPIYCNAのメンバーを介して始まった」とNestle Myanmar代表のDavid Pettinari氏はe-mailで回答した。
多くの企業が国際規準の遵守を主張した一方で、違反の証拠は規制監視グループによってしっかりと記録されていると、IBFANのChing氏は述べた。
「規制の目的は乳幼児の健康を守ることだが、企業の目的は利益を生むことだけである。母乳育児の保護と促進は、製品の販売に影響を与え利益率を低くする、そのため利益確保との葛藤は尽きない」と彼女は記した。
セーブ・ザ・チルドレンの報告にあった違法な製品に関する質問とそのような製品をリコールするかという質問に対し、Pettinari氏はNestleミャンマーの乳幼児粉ミルク製品はミャンマーの新しい法律の規制を遵守したものだと主張した。「2014年の規制の施行に基づき、弊社の全てのラベルは規制を遵守するように変更された」と彼はe-mailで回答した。
「ネスレミャンマーは製品に新しいラベルを貼る一方で、取引のある事業者や販売店に対し規制を確実に遵守する重要性を叩き込むための説明とトレーニングにかなりの時間を費やした」と彼は付け加えた。
IBFANによると、母乳で育てた乳児は、母乳から母親の抗体を得られるので、耳炎や呼吸器感染症、下痢、髄膜炎、アレルギーを負うリスクが少ない。
また、母乳で育てた母親は、2型糖尿病、乳癌、肥満、卵巣癌、産後うつ病、膀胱感染症のリスクが減少する。
Cashin氏によると、ミャンマーは根強い母乳育児の文化をもちながら、既存のデータによると完全母乳育児率は低く、母親は、子どもの体重を増加させるために、母乳を補う特別な何かを、家族から強要された経験を持つという。
「あなたが都市に住んでいたら、いかに製品が赤ちゃんを太らせ、賢くし、見た目をよくするという謳い文句に攻め立てられることでしょう。そして、それは本当にいい選択肢の様に思えるのです」とCashin氏は述べた。
専門家は、適切な施行なしには、乏しい規制と幼児粉ミルク産業の拡大、公共衛生情報の不足、粉ミルク企業による非倫理的な販売活動がミャンマーの母乳で育てる文化に有害な影響を与え、ミャンマーの子どもたちに深刻な健康リスクを生み出す恐れがあると考えている。
(Myanmar Times 2015年 10月20日版 第9面より)