カールスバーグミャンマーのマネージングディレクター、Michael Jensen氏は、彼の醸造所がこの国で事業を行うために強いられた環境における不満を隠そうとはしなかった。
「私たちは、完全に不公平な税制、非常に煩わしい官僚的手続き、タイと中国の国境を越えたビールの不法取引に直面している」とMichael Jensen氏はThe Myanmar Times誌に語った。
それらの問題は現行の事業にとって悪影響を及ぼすだけではない。成長計画を再考し、すべてのさらなる投資を保留することを余儀なくするものだ。
カールスバーグミャンマーはThe Myanmar Timesを発行している、ミャンマーの大実業家Thein Tun氏によって運営されており、2015年にヤンゴンのバゴー管区で1億米ドルの醸造所をオープンさせた。現在はCarlsbergの他にもYomaとTurborgのビールを製造している。
ミャンマーの中産階級の増加に伴いビールの需要が高まることを見込んで建設されたカールスバーグミャンマーのビール醸造所では、国内年間ビール消費量の約13%にあたる60万ヘクトリットルのビールを生産することができる。カールスバーグのビールはわずか3年経った今ではミャンマーのビール店約2万〜2万5千店舗の半分ほどで見られるようになった。
違法取引
しかし、それでもこの事業は損失を出し続ける。国内のビールの違法な取引が最大の妨げの一つだ。ミャンマーはすべてのビール輸入禁止措置を取っているが、Euromonitorによると全国で売られているビールの30%までは違法である。違法輸入ビールの約80%はタイの国境を越え、残りの20%は中国の国境を越えて密輸されている。
「違法輸入ビールは、ミャンマーの5つ星のホテルや空港などいたるところで見られる。これらのビールは国境を越えて密輸され、私たちが同じ値段で販売することが不可能な価格で売られている」とMichael Jensen氏は語った。
「これらの違法輸入について政府と話し合ったが、何も解決していない。競争相手の大部分が違法輸入品である場合、誰が醸造所を設立するだろうか、何故ここで拡大しようとするだろうか?」
Michael Jensen氏が更に不満を募らせるのはカールスバーグの海外醸造所からビールが輸入できないことについてだ。「当社製品の拡張を検討する場合でも、市場をテストするためにビールを輸入することもできない。しかし、何も投資していない人は、国境を越えて、我々より安い値段でビールを売ることができる」と付け加えた。
「私たちは、完全に不公正な税制、非常に煩わしい官僚制の手続き、ビールの不法取引に直面している。」Michael Jensen、カールスバーグミャンマー
貧しい税金
密輸されたビールは手ごろな価格であることが主な理由で消費される。店舗調査結果に基づくと、330ml缶では現地生産のビールよりも約35%安い。密輸されたビールは税金が課されないため、地元で生産されたビールより安いのだ。
事実、Euromonitorは、2016年にビールの不法貿易に起因する政府の税収喪失が5,000万ドルに達したと推定している。これは、ミャンマーの合法的なビール生産者が生産した場合に政府が得られたであろう総額である。
しかし、違法な競争に加えて、実はミャンマーのビールに対する税金が企業の成長へのもう一つの抑止力であるので、カールスバーグのような醸造者は事業拡大について再度検討している。
ミャンマーではビールの税金は60%だ。これは通常、消費者に課される。「60%の税を払わねばならないことがひとつ。しかし、ビールと同量のウイスキーには、より多くのアルコールが含まれているにもかかわらず、ビールの5分の1足らずの割合で課税されている」とMichael Jensen氏は言う。
「競争相手の大半が違法輸入品である場合、誰が醸造所を設立するのか、何故拡大するだろうか?」Michael Jensen、カールスバーグミャンマー
ビールと比較してウイスキーの税率を引き下げられていることは、ビール業界にとっての障壁となる。Grand Royaleのウィスキーボトル1瓶(1,200Ks)をTuborgビール1瓶(1,600Ks)と比較すると、新規参入のビール醸造業者が利益を上げることはできない。
Michael Jensen氏は、「市場で新しいブランドのビールを知るためにはそれを飲む必要があるが、ウイスキーがずいぶん安いので、ビールの需要が抑えられてしまう」と言い、ウイスキーと比較したビールの現行の税率は、ビール産業の成長にとって “法外な”ものであるとした。
ビール産業が成長するためには、「政府は、現在の水準の5分の1以下の税率でビールを売ることができる、より均衡のとれた税制を作り出すべきである。あるいは、ウイスキーの税率を上げるべきだ」とMichael Jensen氏は言う。
「市場全体は税なしでは現在の3倍から4倍に簡単に拡大できる。税制の構造が変更されれば、さらに多くの銘柄が市場に出回るだろう」と付け加えた。
あまりにも多くの官僚
カールスバーグのミャンマーの困難はそれでは終わらない。Michael Jensen氏によると醸造業者は、常に人的資源を占有し不必要にコストを押し上げる官僚的プロセスに悩まされているとのことだ。
たとえば、流通は物流によって脅かされる。「当社の製品を配送する許可を得ることは非常に困難だ。我々は輸送許可証を持たずに製品を配送することはできない。我々は毎日ビールを運ぶので、当局からの輸送許可を得ることは日常的な事であり非常に厄介だ。このように、ミャンマーでは他の国と比較して2〜3倍の費用がかかる。
例えば、昨年9月に新しいビールを発売するという承認を受けた後、 カールスバーグはそれにもかかわらず、国内のスーパーマーケット、レストラン、バーに商品を配送することができなかった。「輸送許可を受けるのに6ヶ月かかったからだ」とMichael Jensen氏は語った。 また、「ビールの出荷をするたびに許可証を申請するのではなく、非効率性を減じるために1年間有効な輸送許可証を導入してはどうだろうか」とも言う。事業を行いやすくするために、政府は現行制度を定めている法律を近代化し、官僚制を廃止しなければならない。
ビール醸造業者にとって重要な収入源であるバーやパブなどの商業施設も、店舗を開くためのライセンスを取得しようとすると問題に直面する。政府は合法的な事業を制限するが、違法輸入と人々がウィスキーボトルを1,200Ksで購入することは許可する。このシステムは不合理である」と彼は言う。
重要なのは、現行のシステムがカールスバーグや他の醸造業者がミャンマーで事業をさらに拡大するのを阻止するということだ。今日、ミャンマーで営業するためのライセンスを保有するいくつかの醸造業者だけが積極的にビジネスを行っている。これらには、カールスバーグ、Myanmar Brewery、ハイネケンおよびタイガービールを醸造するハイネケンが含まれる。
過去60年の間に主にMyanmar Beerだけを飲んできた消費者にビールを販売することを含め、新規参入のビール業者には他の課題もある。Myanmar Beerは、国内で一番大きく古いビール醸造所Tatmadaw-linked Myanmar Breweryで生産されている。
「我々は、醸造所の成長の次の段階を見据えているが、大規模な違法貿易と不公平な競争のために、より多くを投資することには消極的である。私たちはミャンマーでより多くの事業に取り組みたいと考えているが、今は拡大することができない」とMichael Jensen氏は語った。
(Myanmar Times 2018年6月7日版 第6面より)